我が青春のコンピュータ


29 はじめてのパソコン1

Commodore 64

1回生の後期にヨシオが履修できる数少ない専門科目の一つに「鉱物学概論」がある。  担当の先生はT先生だ。 T先生の研究室には地質学科の中で唯一パソコンが設置されている。

Commodore 64 というアメリカ製のパソコンだ。

後期試験も近づいて来たある日のこと、授業の終わりにT先生が仰った。

「この中でBASICというのができる者はいるか? いたら手を挙げてくれ。」

30名弱の受講生のうち、すっと手が挙がったのはヨシオを含めた3名だった。  他に2・3人、手を挙げようかどうか迷っている学生もいたようだが、T先生は待つことなく。

「よし、その3人。 春休みにウチの研究室でデータ入力のアルバイトがあるけど、やるか?」

3人とも首を縦に振った。

「だけど雇うのは1人だけ! 今すぐジャンケンで決めてくれ!」

後出しナシの1回勝負! アルバイトがかかった大一番だ。  ヨシオはジャンケンはまったく自信なし! ダメでもともと...

「ジャンケンポン!」

勝つ気まったくナシで「パー」を出したら、なんと一発で決まった。 他の2人は「グー」を出していた。

「よーし、ヨシオ! 後から研究室に来てくれ!」


「失礼します!」 (ヨシオ)

「おーい! 入れ!」 (T先生)

ヨシオはソファーに座るように促された。

ソファーのそばにある作業机には、地質学科で唯一のパソコン Commodore 64 が鎮座していた。

(ふーん...これがCommodore 64かぁ...) (ヨシオ)

「実はな...このアルバイト、結構大変だと思う。」 (T先生)

と、前置きしておいて、T先生はヨシオに説明し始めた。

アルバイトの内容は以下のようなものだ。

市内を網羅する2万5千分の1の地形図(約10枚)から、 斜面の険しい所(急傾斜地)を抽出する仕事だ。  何でも防災関係の役所からの依頼らしい。

作業の手順は...

  1. 地形図に1cm間隔の格子(メッシュ)を描く。(手作業)
  2. 標高をパソコンに入力する。(プログラム)
  3. 入力データから格子ごとの傾斜角を算出する。(プログラム)
  4. 傾斜角ごとに色分けしてペンプロッタで地形図に作図する(プログラム)。

ペンプロッタというのはどうやらパソコンに接続できる作図装置らしい。  T先生の話によると既にペンプロッタは注文済みで、近日中に納品されるとのことだ。

(う~ん...このペンプロッタというのは面白そうだな。) (ヨシオ)

「先生...ここに書いてるプログラムはどこですか?」

ヨシオは仕事の手順を書いた役所の文書を指差して先生に尋ねると...

「...ない...ヨシオ...オマエ作れ。」 (T先生)

ヨシオは空いた口が塞がらない。

「でも先生、僕はCommodore 64もペンプロッタも使ったことありませんよ!」 (ヨシオ)

「そこを、自分で勉強してやってくれよ。 頼むわ!  その間、パソコンもペンプロッタも貸してやるから、下宿でもどこでも持って行っていいぞ。」 (T先生)

「えっ!貸してもらえるんですか?!」 (ヨシオ)

「もちろんだ。 それにな、アルバイト代も弾むぞ! 15万出す!」 (T先生)

「えぇ~~っ! じゅ...じゅうごまん~~っ!」 \(@o@)/


即決である。

期末試験が終わって、T先生の研究室にペンプロッタが届き次第、作業を開始することとなった。