我が青春のコンピュータ


22 星空観望会1

キャンパスは学園祭のシーズンとなった。 体育系・文科系を問わず、キャンパスの至る所で準備に追われている。

ところで、ヨシオはどのクラブにも所属していない。 クラブ活動をしたくないと言う訳ではなかったが、 当初は入学してから半年くらいかけて色々と評判を探ってから、学園祭の折にでも入ろうと思っていた。

ところがコンピュータに取り組むことになったために、その計画は変更を余儀なくされそうである。

確かに、学内には「マイコン部」というのがあって、かなり活発に活動を行っているらしい。  しかし友人に話を聞いてみると、マイコン部員は非常に専門性が高く、部室のドアには  「素人さんお断り、入室可能者 = 68000マシン語 もしくは assembly language が読める者」  との張り紙があるらしい。

おまけに、部員たちは常人にとっては意味不明のスラング(隠語)を使いこなしていて、 周囲からは「オタク」(それがどういう意味かは解らない)と呼ばれているらしいことが判明した。

(これは「たむら荘」よりもひどそうだ...)

まあよくよく考えてみると、「たむら荘」自体がひとつのサークル活動のようなものである。  「たむら荘」では毎夜のごとく専門の垣根を越えて様々なディスカッションが繰り広げられているし、 ヨシオ自身、ディスカッションの中で「たむら荘」の同居人たちにコンピュータの何たるかを解説する事も少なからずあった。

(止めとこうかな...)

結局どのクラブにも所属することなくヨシオは卒業する。


ついに学園祭の当日を迎えた。

ヨシオにとってみても初めての学園祭である。  3日間の期間中、軽音楽部の演奏やら空手部の板割りの実技披露やら茶道部の野点やら...数え上げたらきりが無い。

(よくもまあこれだけの学生がいるもんだ!)

そう思いながら、キャンパスのメインストリートをそぞろ歩いていたのだが、そこである立て看板が目に入った。

「天文部主催:星空観望会 ★ あなたも25cm反射望遠鏡で星空を覗いてみませんか! ★  本日19:30 南グランド 参加費:無料!」

天体観測には興味がある。しかし天文部は夜の活動が多いと聞いていたため、ヨシオは初めから入部を断念していた。

しかし、25cm反射望遠鏡なんて、田舎出身のヨシオは見たことが無い。

(ちょっとみてみたいな!)


その日の19時30分 南グランド。

グラウンドの近くから漏れて来る街灯の光の中に、25cm反射望遠鏡はその巨大なシルエットを映し出していた。

(...さすがにデッカイな!)

その巨大な望遠鏡は何でも熱烈な天文ファンである部員のひとりが2年計画で自作したもので、 数週間の試験運用の末に、本日初お披露目ということだった。

そこには50名ほどの学生に加えて、付近の小学校のPTAの方が子供たちを大勢引き連れてやってきていた。

「はーい!小学生優先でーす。 学生の方は申し訳ありませんが、9時からの公開を予定してまーす!」(天文部員)

(えーっ!それはないよなー!)

天文部の対応に腹を立てても仕様がない。 ヨシオは南グランドの入り口にある自販機で缶コーヒーを買ってきて、 会場近くのベンチで順番を待つことにした。

しばらくすると、会場の方から懐中電灯を持ってこちらに向って歩いてくるひとりの男子学生がいた。

どうやら天文部員らしい。 彼は手にしていたショルダーバックの中から 何やら電卓のようなものを取り出して計算をしている。  さらにしばらくして、その学生のいる方向から何やら機械的な音がしてきだした。

「ジジジ..ジジジジ...ジジジジ...」

(えっ!この音は...!)...ヨシオ

何と! その音はヨシオが毎日のように耳にしているあのPC-1211のプリンタの印字音ではないか!