ヨシオは 「たむら荘」 という下宿に住んでいる。
家賃は月額4,500円。 4畳半に押入れがついた畳敷きの質素な部屋だ。
下宿全体では18部屋もあった。 バス・トイレ・キッチンは共同。 幾つかの部屋では雨漏りが耐えなかった。
たむら荘には学部や回生を問わず、様々な学生がいた。
- ニーチェしか読まないやつ
- 英語しかしゃべらないやつ
- ハングルの短波放送しか聞かないやつ(彼は後に外務省に職を得る)
- 大家さんに無断で下宿の屋根にアマチュア無線のアンテナ(高さ8m)を建てたやつ
- 大家さんの許可を得て日曜日の午後に2時間だけ自作した300Wの真空管アンプに
BOSEの巨大なスピーカーを繋いで大音量でロックを流すやつ
- 毎夜ハーレーダビットソンに跨り
ナンパに走るやつ
- 得度者
(本人は臨済宗徒だと言っていた)
- 左派系武闘派の活動家
- マオイスト
- ゴロー(5浪)さん(でも、大学を主席で卒業した)
- アルバイトの斡旋屋(かなりの収益があったと言う)
- スナックを経営してるやつ(クラウンに乗っていた)
- etc...
また、たむら荘には掟が存在した。
- 大家さんご夫妻にお会いした場合、最敬礼の上ご挨拶すること。
- 下宿内においては上級生・下級生の区別をしないこと。
- 夜、騒がないこと。
- 炊事場・便所・風呂場は常に清潔を保つこと。
- 例会には必ず出席すること。出席できない場合は欠席届を署名捺印の上、下宿長に提出すること。
入居した後になって聞いたことだが、学生の間で 「たむら荘」 と言えば...
- 妖怪の館
- 変人集団
- 人生諦めるなら、たむら荘に住め!
- げっ!オマエ、たむら荘に住んでんの! それってヒッジョーに(今ではチョーと言う)ヤバイんじゃない?
という評価が確立していた。