学生たちは先生の話をいつに無く真剣に聞き入っていた。
最近、世の中は確実に情報化社会へと変革しつつあることは、 それなりに新聞やニュースを見ている学生であれば、誰もが感じ取っていたことであろう。
この2・3年、テレビのコマーシャルには パーソナルコンピュータと言われる製品の宣伝が目に付くようにもなっていた。
当時、(どうやら個人でも所有できるくらい安くなったんだな...)程度にしかヨシオは思っていなかった。
また1人の学生が手を上げた。
先生、最近パーソナルコンピュータが普及していますが、どんな機種がいいですか? ...実は買おうと思ってるんです!
一瞬、学生たちは騒然となった。 パーソナルコンピュータと言えば高嶺の花である。 本体価格は15万円以上。 プリンタなどの付属品をつけると馬鹿をすれば50万円を越える出費を覚悟しなければならない。 それに、使いこなせるかどうかも不安である。
「えっ! 買うんですか! お金持ちだなぁ!」(先生)
「どの機種がいいかと言うことは一概に言えません。 予算にもよるけど、 パソコンで何をしたいのか?そしてそれぞれの機種にどんな機能があるのか? カタログやパソコンの雑誌などを見て仕様をじっくりと検討する必要があるね。 それと、販売店に行って実物を見てみるのもいいよ...そう言えばこの教室ではT先生が Commodore 64 をお持ちのようだから、見せてもらったらどうかな?」
どうやらCommodore 64というのはパソコンの機種のことらしい。
その他にも先生は PC-8801, MZ-80K, FM-8, などの機種名を挙げたが、 ヨシオにとってはどれも皆始めて聞く言葉だった。
1979年にNECからPC-8001 が発表され、本格的なパソコン時代が到来した。 これまで、一部の専門家にしか取り扱うことができないと思われていたコンピュータを 個人が自由に扱うことのできる「家電製品」へと変貌させるきっかけとなった記念碑的コンピュータである。
(後にヨシオはこれが欲しくてたまらなくなるのだが、本体価格が16万8千円もしたため、とうとう手が出せなかった)
PC-8001の後継機として1981年の9月(測量学の講義の行われた月)に発売された。 本体価格は22万8千円。 漢字ROMを搭載し、漢字を扱うことができるようになった。 PC-8801はその後10年以上にわたって日本の市場をNECが支配するきっかけとなった機種として名高い。
富士通が初めて発売したパソコン。 本体価格は21万8千円。 RS-232Cの 内蔵ポートを装備し、周辺機器の制御やFM-8同士でのデータ通信を実現していた。
シャープの一体型パソコン。 本体価格は27万8千円。
プログラム言語としてベーシック以外にも FORTRAN言語や Pascal言語を使うことができた。
当時のパソコンはどれくらいの性能だったのか?
1981年に発売された主なパソコンについて、その性能の1つである中央演算装置(CPU)の 処理速度(クロック周波数・1秒間に計算できる回数)を見てみよう。
機種名 | クロック周波数 |
---|---|
NEC PC-8001 | 4MHz(4メガヘルツ・様々な制約があるため、 実際には2.3MHz程度で動作する) |
NEC PC-8801 | 4MHz |
Fujitsu FM-8 | 1.2MHz |
SHARP MZ-80B | 4MHz |
では、その28年後。 2009年における一般的なパソコンのクロック周波数はどうかというと、 性能の低い物でも1GHz(ギガヘルツ・1,000MHz)以上、高性能の物になると3.8GHz(3,800MHz)にも達している。 クロック周波数だけで見ても、実に数百倍から数千倍も高性能になっているのである!
ちなみに、ヨシオの所有していたポケコン(PC-1211)のクロック周波数は...何と! 256KHz(256キロヘルツ・0.256MHz) しかなかったのだ!