我が青春のコンピュータ


10 カセットテープ

当時のラジカセ

いよいよ最終日である。 学生たちは今日もポケコンや関数電卓をフル装備で抱えてきた。

「今日はプログラムをカセットテープに保存する方法をやってみよう。」(先生)

「えっ!カセットテープにプログラムが保存できるんですか?!」(学生)

「そうだよ。せっかく苦労して書いたプログラムを保存しておいて、後から再利用できるんだ。 私の職場でも社員が何百種類もプログラムを書いてカセットに保存してるんだ。」(先生)

「ヨシオ君のポケコンはプリンタにオーディオ端子が付いているから間違いなく保存できると思うよ。」(先生)

ヨシオは何となくうれしさを感じながらプリンタの側面についているオーディオ端子に見入っていた。

「さっき事務室からラジカセを借りてきてるから、これとヨシオ君のポケコンを接続してみよう。 それじゃあ、マニュアルを見て接続してくださいね。」(先生)

といっても、接続は実に簡単で、3本のコードをコネクタの色に従って接続するだけだった。

「それでは、またマニュアルの中でプログラムの保存方法について書いてるところを探してやってみてごごらん。」(先生)

ヨシオたちは慣れない用語と格闘しながら何とか該当する部分を探し当てた。 どうやら SAVE というコマンドに続けてプログラム名をダブルクォーテーション(”)で囲めばいいらしい。

「よーし...打ってみるか!」

「間違いないな...よしっ。行け!」

ENTER キーを押してしばらくするとカセットテープが録音状態で回り始め、数秒間録音した後に停止した。

「ちゃんと保存できてるようだね。それではポケコンの中のプログラムを消してみよう。 消し方ももマニュアルで探してごらん。」(先生)

こうして学生にマニュアルを読ませることで、彼らは次第にマニュアルに慣れてきていた。

「あった!こんどは KILL コマンドか。何か物騒だな。」

KILL "TEST" ENTER

「さぁ、これでプログラムは消滅したよ。確認してごらん。」

ヨシオは例の キーを押してみたが。 確かにプログラムは何も表示されない。 どうやらホントに消滅したようだ。

「それでは、カセットテープからプログラムを読み込んでみよう。」

ヨシオ達はもはや先生に言われるまでもなくマニュアルでプログラムの読み込み方を探し始めている。

「ふーん...LOAD って言うのがあった。それとテープを手動で巻き戻しておくのね。」

LOAD "TEST" ENTER

カセットテープは今度は再生状態で回り始め、ほんの数秒間で自動停止した。

「もう読んだの?ホント?」

ヨシオは半信半疑で キーを押してみると、 果たして、先程消滅したプログラムは見事に息を吹き返していた。(と、言うよりも正しく読み込まれていた)

「どうだい。 これで皆さんもいっぱいプログラムを書いて使い回すことができるね!」(先生)


当時の音楽事情

フォークソングが全盛の時代である。 井上陽水・小椋佳・アリス・かぐやひめ・etc...  アイドルでは山口百恵・桜田淳子・森昌子・西条秀樹・野口五郎・郷ひろみといった時代。  ラジオではオールナイトニッポン・セイヤングなどが人気だった。

1979年にSONYから ウォークマン が発売されているが、最初の頃はあまり音質が良くなく人気が無かった。

当時、イヤホンを付けて音楽を聴きながら歩くと言うのは、何となくお行儀の悪い様に評価されていたと思う。

どちらかと言えば、ステレオコンポーネントで ”レコード” を聴くのが普通だった。(CDが登場するのはこの翌年の10月である)

学生下宿は手狭なのでそんな大仰で高価な物は置ける筈も無く、多くの学生たちは 3万円程度のモノラル のラジカセを所有していた。 ステレオのラジカセが普及し始めたのはヨシオが3回生になった頃からである。