我が青春のコンピュータ


7 プログラムの互換性

シャープとカシオの電卓戦争

当時、関数電卓と言えば、シャープ・カシオ・ヒューレットパッカードの3社がシェアを争っていた。  特にシャープとカシオのシェア争いは熾烈で、 「電卓戦争」 とまで呼ばれていた。

機能が向上すると同時に価格も爆発的に低下した関数電卓は、 当時の理科系学生にとって手にすることのできる文房具として普及しつつあった。

さらにこの年、シャープは関数電卓の機能を更に進化させたポケットコンピュータを発売したのである。 (ヨシオが間違えて買ったやつ)

言うまでも無く競合他社も直ちに追随した製品を発売している。

各社の関数電卓やポケットコンピュータにはプログラム機能が組み込まれたが、 メーカーや機種によってその操作方法は異なっていた。


話を測量学の教室に戻そう。

幸いなことに、ほとんどの学生の関数電卓にはプログラム機能が装備されていたが、 機種によっては先ほどのプログラムのままでは動作しないのである。

生まれて初めて書いたヨシオのプログラム(ピタゴラスの定理)は、 ヨシオのポケットコンピュータと同じ機種でなければ動かない。

別の学生が持っているカシオ製の関数電卓では次のようになる。

10:INPUT "A=",L1
20:INPUT "B=",L2
30:LET NAGASA=SQRT(L12+L22)
40:PRINT "C=",NAGASA

上のプログラムで30行目の二乗を表す小さな2はカシオ製の関数電卓にボタンとして備わっている。

ヨシオのポケコンでは、30行目は以下のようになっている。

30:LET C=√(A*A+B*B)

他にも、ヨシオのポケコンでは、変数はAからZまでの26個しか使用することができないが、 カシオ製の関数電卓では変数は64個使用可能で、7文字までの名前をつけることができた。

見かけ上は微妙にしか違わないのだが、プログラムを他の機種で使えるようにするためには それなりの移植作業を必要とするものだった。

この日、日もとっぷりと暮れたにも拘らず、先生は学生のためにその移植作業を何機種かに渡って行ってくれたのである。  さぞやご苦労されたに違いない。

「もういい加減に帰ってください!」

怒った事務職員が部屋の鍵を持って駆けつけたところで、即席のコンピュータ教室はお開きとなった。