いよいよ測量学の講義が始まった。
測量学の講義は1回生が受講することのできる数少ない専門科目の一つであった。 集中講義で3日間行われる。
先生は大手建設コンサルタントの部長さんで、ヨシオたちの大先輩に当たる人だ。
講義では測量の基礎的な計算方法や、測量儀の使い方などのレクチャーを受けた後、実際に屋外に出て測量を行い、 その結果を図面に描いたりする。
1日目、測量の計算方法を学んだ後、実際に電卓を使って計算を行うこととなった。
「できた人は前に出してくださいね。それでは計算して下さい!」と先生が言うが早いか、 学生たちは購入したばかりの関数電卓を使って計算に取り掛かった。 計算項目は約200。関数電卓を使い慣れた者が計算しても軽く1時間はかかる作業量である。
ヨシオも例のポケットコンピュータを取り出し、ひたすら計算式を打ち込んでいく。
気分的には非常に楽だった。何故なら、入力ミスをしても矢印キーを使えばすぐに修正が可能である。 さらに、何回も同じ計算を繰り返して行う場合でも、初回に入力した計算式を矢印キーで表示させておいて、 データの変わった部分を修正するだけで済むのだ。
ヨシオは一心不乱に計算を続け、答えをレポート用紙に書き写した。
「できた!」
記入漏れが無いか確認したうえでヨシオは立ち上がったのだが、 そのとき、周囲から「うぉー」というどよめきが沸き起こった。
「ヨシオ!もうできたのか!」
クラスメートの多くはまだ3分の1もできていない。
「えっ...? いったいなぜ?!」
ヨシオ自身も戸惑いを隠せないまま、先生にレポートを提出した。
レポートを受け取った先生はニコニコしながらヨシオに声を掛けた。
「ご苦労様!君の使っているのはコンピュータだね。だったら今の計算はもっと速くできるよ。」
先生の言葉に、ヨシオはもちろんのこと他の学生たちも騒然となった。