西暦1981年。 ある地方国立大学に入学したヨシオという学生がいた。
彼はどちらかと言うとフィールドワークが好きな方で、コンピュータにはあまり興味を示すようなタイプではない。
あるとき、測量学の講義を受講するために関数電卓がどうしても必要となったため、彼は関数電卓を購入するためにしぶしぶ大学生協の売り場へと足を運んだ。
陳列ケースの中には当時としては最先端の関数電卓たちが居並んでいる。 結構見栄っ張りな彼は「よーし!一番いいの買ってやろう!」と思った。
「一番いい = 一番高い...」
それ以外は何も考えることなく、彼はアルバイト代を叩いてプリンタまで付いた関数電卓を購入した。
「さぁ使ってみるか...」
下宿に帰って関数電卓の梱包を解いて本体を見てみると、何だか雰囲気が違う。 その関数電卓には、三角関数のキーや統計に用いるキーが一つも無かったのだ。
アルファベット1文字が描かれたキーが不規則に並び、おまけに見たこともない「Enter」という一際大きなキーが目を引く。
「何だこれ...?関数電卓じゃないの...?」(T_T)
彼の脳裏に不安がよぎる。
藁にもすがる思いで、付属していた取扱説明書を引っ張り出したとき、彼の不安は的中した。
説明書には「関数電卓」とは一文字も書いていない。 その表紙には、実に奥ゆかしい表現で「SHARP PC-1211 ポケットコンピューター」という文字が刻まれていた。
コンピュータなんて...全くもって使い方が解らない。 しかし、開梱してしまった以上、今更返品する訳にもいかない。
「うゎっ...!やられたー!」と思っても後の祭り。 いまは自分の無知を恨むしかなかった。
数日間はふてくされていたヨシオだが、測量学の講義は目前に迫りつつある。
「何とかせにゃならん...でも...あれ...使えるのか...?」 \(ToT)/
その日、ヨシオの眠れない夜はしんしんと更けていった。